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第39回梓会出版文化賞 選考のことば


梓会出版文化賞有限会社 子どもの未来社
同 特別賞Book&Design
第19回 出版梓会
新聞社学芸文化賞
株式会社 彩流社
同 特別賞株式会社 ポプラ社

■ 選考のことば(選考委員 内澤旬子)

 今回の選考委員会は10月10日に行われました。72社より250点の応募があった中で、一次選考ではまず5人の委員が自薦書類を精査して各人四社まで候補を選びました。選考会会場には候補となった15社の63冊の本が机に並べられ、実際に手に取り読むことができました。自薦図書の他に社のパンフレットやチラシなども置いてありました。

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 私は今回が初めての選考会なので、勝手がよくわからないままとりあえず1冊ずつ見ていきました。どうやら今回はいつもより候補の重複が少ないとのことで、本はテーブル一つに乗り切れずに二つのテーブルいっぱいに並べられていました。重複が少ないということは、委員それぞれの思惑が割れているということに他なりません。
 全員席に戻ったところで、まず各委員が推薦した理由を述べていきます。1名が欠席のため、4人が述べました。それぞれの視点から出版社の志や出版物の魅力が明らかになります。票が割れたとはいえ2票入った出版社が、子どもの未来社、サンライズ出版、仮説社、ポプラ社、藤原書店、堀之内出版と六社ありました。まずこの六社に加えてどうしても審査に加えたい出版社はあるかを聞かれ、小野正嗣委員が田畑書店を、私がBook&Designを推しました。
 ここでまた全員席から立ち、改めて選考に残った出版社の本を一つずつ手に取り精査。席に戻り各委員が意見を述べる中でポプラ社、藤原書店、堀之内出版が選外となり、サンライズ出版、子どもの未来社、仮説社の三社が残ります。サンライズ出版は滋賀県に根ざした書籍とともに謄写版印刷から始まったという社史にも注目が集まっていました。仮説社は地層や海の微細な生物などユニークなテーマの児童書が評価されていました。
 しかし全員から高評価を得たのは、子どもの未来社でした。自由と平等、貧困、社会的弱者との共生、戦争と平和など、現代社会が直面する難題をどう考えれば良いのかを伝え、社会をより良く変えていこうという力強い意志に満ちていました。
 子どもの未来社は2000年に設立された比較的若い出版社で、2021年の選考では特別賞の最終選考に残っています。今回の自薦図書『戦争と平和 子どもと読みたい絵本ガイド』はウクライナの戦争が終わらないまま、ガザも戦争状態となり不穏なニュースが続く中で、子供たちに戦争をどう伝えるかにとどまらず、大人にとっても改めて考える機会となる絵本が紹介されています。『わたしは反対!社会をかえたアメリカ最高裁判事 ルース・ベイダー・ギンズバーグ』、『オリヒメ 人と人をつなぐ分身ロボット』は、無理と思われていたことを変えていく力と情熱を持つ人物の軌跡を紹介。伝記といえば遥か遠い過去の人物紹介だった自分の子供時代から比して、これらの伝記絵本は未来への即戦力となる生き方が示されていて、子供の時にこんな絵本に出会えていたらと思わせられます。混迷する時勢だからこそ、子どもの未来社の出すラインナップに支持が集まりました。
 特別賞は、サンライズ出版、田畑書店、Book&Designの三社からという流れになり、田畑書店の文芸書、アジア叢書のラインナップへの評価に加えてポケットアンソロジーシリーズに注目が集まりました。短編小説を一篇ずつ購入し、専用のジャケットに綴じるというもので、実際に見て触ってみるまではどんな構造なのか想像できませんでした。好みの短編だけを集めて自分好みの本を作りたいという欲求に応える試みがうまく形になっていました。
 紙や書体、印刷製本にこだわリオブジェとしての本の特質を追求するという点ではBook&Designの『詩画集 目に見えぬ詩集』も負けず劣らずのこだわりに溢れた美しい本です。何より印刷製本に相当な手間をかけたにも関わらず、2,600円という低価格で刊行したことに驚き推薦しました。Book&Designは従業員数ゼロのひとり出版社であり、自薦図書も1冊だけだったこともあり、1次選考では評価されにくかったのですが、書体や装丁関連の出版物があることがわかったことに加え、本とデザインに関わる展示イベントやワークショップなどの多彩な活動が決め手となり、特別賞受賞となりました。人工知能の発達や二つの戦争など、不穏にして激動の現代で、本ができることは何か。小さな出版社だからこそできる突拍子もないことが生まれることを期待しています。

■ 新聞社学芸文化賞 選考のことば(共同通信社文化部 部長 田澤 穂高)

 新聞社と通信社の文化面・読書面担当者が選ぶ出版梓会新聞社学芸文化賞は、第20回を迎え、私たち選考委員は、同賞に株式会社彩流社、特別賞に株式会社ポプラ社を選びました。両社とも、節目での受賞にふさわしい良書を届けていただいたと実感しています。

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 彩流社の刊行物のうち、とりわけ評価が高かったのは、山本佳典著『羊と日本人』です。明治以降の日本での牧羊の歴史をひもといた本で、フリーランスのライター、山本さんにとっては初めての著作となります。富国強兵を進める近代日本は、羊に目を付け、米国で買い付けを行い、植民地だった朝鮮半島や旧満洲での飼育を試みました。日本での羊の増産は、戦争や貿易摩擦、不景気など、いくつもの歴史の荒波があり、そこを乗り越えてきた牧畜農家や技術官僚の姿を慈しみをもって描いています。私は、読書デスクに薦められてこの本を手にしましたが、これまであまり語られてこなかった近代史の側面がここにもあったか、と着眼の鋭さに驚き、登場人物それぞれの壮絶な人生を思い浮かべ、高揚感を抱きながら読みました。
 恩田雅和著『落語×文学 作家寄席集め』への賛辞もありました。こちらは、大阪市の天満天神繁昌亭で支配人を長く務めた恩田雅和さんが、落語が登場する文学作品を作家ごとに紹介するエッセーで、産経新聞等での連載をまとめたものです。坪内逍遥に始まり、西村賢太に終わる約80人の中には、こんな人も、という驚きがある一方で、笑いとおかしみを表現する落語が文学との親和性が良いことも平易に伝えてくれました。
 特別賞となったポプラ社で、注目が集まったのは、まず、ジェームズ・サーバー作、村上春樹訳の『世界で最後の花』です。80年以上前の絵本で、村上春樹さんの手が加わって日本語版が刊行されました。「みなさんもごぞんじのように、第十二次世界大戦があり」という言葉で始まる本作は、町や森、芸術が消え、「男も女も子供たちも、そのへんの動物たちより、もっとみじめな存在に」なる様がペン画により、描かれています。かろうじて生き延びた人々は再び町を興し、活気を取り戻しますが、また戦争に戻ってしまいます。何と、予言に満ちた本でしょうか。世界各地で紛争が続く現代にこの本を再び世に出すという判断に敬意を表したいと思います。
 又吉直樹、ヨシタケ シンスケ著『その本は』も評価すべき本です。又吉さんとヨシタケさんという、ペンと絵の鬼才がタッグを組んだ時点で作品の成功は約束されていたのかもしれませんが、この本は単純に1+1が2とはならない、掛け合わせの面白さに満ちています。これは本を探す旅に出た二人の男の語りによる物語で、読み進めていくうちに、読者は「その本」のイメージを膨らませていきます。ユーモアがありながらほろりとさせる文体、レトロなのに新しさを感じる絵と装丁、紙の本を所有する喜びを感じさせてくれます。
 彩流社は、本の街、神田神保町で社員10人という少数精鋭で業を営んでおられます。ポプラ社の社員規模は、その30倍近くにもなります。一見、まったくキャラクターが異なる二社に共通するものは、志の高さになるかと思います。世に出すに値するもの、社会にとっても意味のあるものを適切なタイミングで出そうという思いが、両社の2023年の刊行物からは立ち上ってきます。そして、それこそが数多くの出版社が存在する意味と言っていいのではないでしょうか。
 このたびはおめでとうございました。

■ 贈呈式動画はこちら

第39回梓会出版文化賞、第20回出版梓会新聞社学芸文化賞(動画)

 

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