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第37回梓会出版文化賞 受賞のことば


梓会出版文化賞株式会社 筑摩書房
同 特別賞株式会社 現代書館
株式会社 文一総合出版
第18回 出版梓会
新聞社学芸文化賞
株式会社 共和国

■ 梓会出版文化賞 受賞のことば

株式会社 筑摩書房 取締役編集局長増田 健史

 第37回梓会出版文化賞にご選出いただき光栄に思います。まずは選考委員のみなさま、そして賞の運営に力を尽くしてくださるみなさまに、深く感謝申しあげます。
筑摩書房は、本年6月に創業82周年を迎えます。実は梓会出版文化賞をいただくのは1988年度に続いて2度目のことです。小社は1978年に会社更生法の適用を申請し、事実上の「倒産」をしました。前回の受賞時は、まだ更生計画の終結には至っておらず、多くのみなさまの支援を受け、再建へと歩みを進めるただなかのことでした。もしかすると当時賞をいただいたのには、「倒産」から10年、よく頑張った、という励ましの意味合いもあったのかも知れません。
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 80年余りの筑摩書房の歴史を顧みれば、この「倒産」こそが(今のところは)最大の事件であったと言えるでしょう。それに前後して、出版物の性格も変化します。1953年刊行開始の「現代日本文学全集」をはじめ、以前は重厚長大な全集を多く編み、「全集の筑摩」とも称されました。80年代半ば以降、文庫や新書のレーベルを立て続けに創刊し、現在はそうしたペーパーバックのシリーズが中心を占めます。
 私が入社した2000年前後には、全集出版社のイメージを保持してくださっている方もまだ少なくありませんでした。新書の執筆依頼に行った先で、「筑摩もずいぶん軽いものを出す会社に変わったのですね」と感慨深げに言われたこともあります。しかしながら、ペーパーバックへの転換は、古い正装を脱ぎ捨て、時代の要請に合わせた手軽な装いに替える、といった安易な試みではありえませんでした。とりわけ私どものような規模の出版社が、大手出版社に伍して文庫や新書の定期刊行を継続することは、たとえていえば、ギリギリまでそぎ落とした後にも残る「筑摩書房らしさ」とは何かを徹底的に問い返し、その核心を継承していかんとする不断のプロセス抜きには果たしえなかったはずです。
 その意味で、選考委員・外岡秀俊先生の「選考のことば」にあるように、今回の受賞に際して、松岡和子先生個人全訳による「シェイクスピア全集」(ちくま文庫)の偉業や、古今東西の知を総覧するシリーズ「世界哲学史」(ちくま新書)といった、筑摩書房の伝統に連なる壮大な―それでいて、コンパクトな器を与えられた―試みに光を当ててくださったことを、何より誇らしく感じました。「筑摩書房らしさ」を再定義し、継承することに力を尽くしてきたすべての先輩方、そして、そのバトンを受け取り、最良の形で送り届けようと情熱を傾ける現役の社員全員とともに、この喜びを分かち合いたいと思います。
 筑摩書房の創業者・古田晁は、創業出版の一冊を引き受けてもらおうと中村光夫氏を関西まで訪ねた際、「うちで本をだしたことであなたは恥かしい思ひをしないだらうと思ふ」と述べたそうです。「きいたことのない本屋の主人」がそう言ったのが印象に残ったと中村氏は「弔辞」に記しています。古田の言葉を、これから会社を興す人間のありきたりな気負いや虚栄と受け取るべきではないでしょう(野原一夫『含羞の人』参照)。1940年という時代に出版社を始めようとした古田が、どんな気持ちで「あなたは恥かしい思ひをしない」と言ったのか。このことの意味を、私たちは今こそよくよく考えるべきと信じます。
 今回、幸いにもこうして当社をご評価いただきました。それは、筑摩書房で執筆してくださる著訳者の方々はもちろん、私どもに(かつての難局にもそうであったように)期待を寄せてくださるすべての関係者のみなさま、そして読者のみなさまに、けっして「恥ずかしい思い」をさせることのないよう出版活動に取り組んでいきなさい―そういう叱咤激励なのだ、と受け止めています。ありがとうございました。

■ 梓会出版文化賞 特別賞 受賞のことば

株式会社 現代書館 代表取締役社長 菊地 泰博

 この度は、第37回梓会出版文化賞特別賞にご選出いただきまして、誠にありがとうございました。
 今回の受賞にあたり、弊社を推薦していただいた選考委員のみなさまには厚く御礼申し上げます。しかし、残念なことに、本賞の選考委員であられた外岡秀俊様が昨年末急逝なさったとのこと、心からお悔やみ申し上げますと共にご冥福をお祈りいたします。
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 現代書館は、梓会様から第1回出版梓会新聞社学芸文化賞を頂戴しておりますので、今回は2度目の受賞となります。賞は何回頂いても嬉しいもので、社員一同感謝申し上げております。
 前回の受賞の挨拶で、梓会は出版界を支える出版団体の旦那衆の集まりで、そこで評価されたことは大変名誉なことで嬉しい、と述べましたら、旦那衆ではないよ、と少々注意されたのが思い出されます。
 しかし、梓会は数ある業界団体のなかでも、業界の中核となる歴史と気骨のある出版社の集まりと、私は心得ております。
 ご存じの通り、かつて戦国時代末期、京・大坂・堺には多くの「町衆」がおり、時代の文化・経済を先導し日本の改革の立役者となっていました。この町衆は江戸期の町人とは全く違います。町人は身分制度の中に組み込まれ改革の表舞台に出るのに幾多の歳月を要しています。しかし、「町衆」と呼ばれる人々は、自由を求め、時代の変革を目指し、戦国大名をも凌駕する勢いがありました。私にはこの町衆と梓会の皆様が重なって見えるのです。やはり、出版界をリードし表現の自由を擁護するという言動が傍観できました。そんな会から賞を頂くなんて、何とも名誉なことと思ったのでした。
 さて、弊社は1967年7月、東京都千代田区三崎町にて創業した出版社ですのでもうすぐ創業55年になります。創業から反権力・反差別を胸に社会科学書を中心とする出版活動を開始し、1971年に刊行を始めた「反教育シリーズ」20巻が広く読者を獲得し、出版社としての基盤が確立しました。
 1978年には、障害者・保育・教育の総合誌『季刊福祉労働』を創刊し、障害者が生きやすい社会を目指し刊行を続けております。
 1980年には、イラストと文章で歴史上の人物・事件・思想などを解説し、学生を中心に絶大な支持を受けた「FORBEGINNERSシリーズ」の刊行を開始。
 1988年、『説得―エホバの証人と輸血拒否事件』(大泉実成著)で、第11回講談社ノンフィクション賞を受賞。
 1997年には、現住所である東京都千代田区飯田橋に自社社屋を建設しました。2004年には、江戸時代の独立公国「藩」の興亡を活写する「シリーズ藩物語」(全270巻予定)の刊行を開始しております。
 2005年、前述しました第1回出版梓会新聞社学芸文化賞を受賞。
 2010年、『モスクワの孤独―「雪どけ」からプーチン時代のインテリゲンツィア』(米田綱路著)で、第32回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)を受賞。
 2016年、『亡国記』(北野慶著)が第3回城山三郎賞を受賞。
 2019年11月、雑誌感覚で読めるフェミニズム入門ブック『シモーヌ』は「女性にまつわる身近なこと」を考えはじめた人の手に取りやすい、を目標に刊行を開始しました。
 福祉・教育・フェミニズム・社会問題・思想・民俗学・芸術など出版分野は多岐にわたっており、時代時代で多少傾向は違っても創業以来の出版理念は変わっておりません。
 出版社は「ひと」で成り立ちます。どのような考えの編集者が、時代と切り結ぶかが勝負です。弊社も随分編集者は若返り、思う存分愉しく仕事をしております。
 これからも「梓会出版文化賞」本賞を頂戴することを社員一同の励みにし、出版活動を続けたいと思っております。ありがとうございました。

■ 梓会出版文化賞 特別賞 受賞のことば

株式会社 文一総合出版 代表取締役社長 斉藤 博

 このたびは第37回梓会出版文化賞特別賞をいただき、望外の喜びです。
 昭和51年に設立された文一総合出版は、『野田宇太郎文学散歩』全26巻、『地方文化の日本史』全10巻、『わが町の歴史シリーズ』全22冊などを刊行しました。昭和60年頃からは、出版物の中心を日本の自然と生き物に関する書籍と雑誌に移し刊行を続けています。生物関係の書籍でなかなか成果が上がらず、自信を失いかけるたびに救いとなったのは、有難い評価をいただき、重版を重ねたその時々の書籍でした。1996年の『保全生態学入門』、2003年の『新しい科学の教科書』シリーズ、2006年の『樹皮ハンドブック』、2010年の『イモムシハンドブック』などがそれにあたります。著者の先生をはじめ関係する皆様には深謝申し上げます。
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 『イモムシハンドブック』は10年間で12刷しており、昆虫ファンのみならず、園芸や野草ファンの方にも広く支持されております。当時、鱗翅目の図鑑は数多く出版されていましたが、その幼虫を主役にした図鑑は例がありませんでした。この本でイモムシの正体を知る事ができるようになり、私自身も庭の椿につくチャドクガの幼虫は直ぐに取り除きますが、スミレに付くツマグロヒョウモンの幼虫は殺さずに、そっと食事をさせてやるようになりました。
 身近な生き物の生活を知ることで、一見あまり関係のないような生物が実は互いに深い関連を持つことが理解できるようになります。そうすると一つの生物がいなくなったために環境に大きな変化が起きるという想像力もはたらきます。第6の絶滅の時代といわれる現代は、危機的な状況にあるのかも知れないと痛感させられます。
 生物学関係に軸足を置いてから30数年が経ち、分類群や生育環境別に編集した、新書サイズの「ハンドブック」シリーズが100点ほど、初心者でも使いやすい文庫サイズの「ポケット図鑑」シリーズから、中・上級者も満足できる詳細な「ネイチャーガイド」シリーズや『日本産カエル大鑑』などの大型図鑑まで、独自性の高い図鑑が揃うようになりました(ちなみに女子ボクシング金メダリストの入江選手は大のカエル愛好者で、テレビ局から贈られた弊社の『改訂版カエル図鑑』を愛読されているそうです)。
 また、日本唯一のバードウオッチング専門月刊誌「Birder」を核に,バードウオッチャー向けの図鑑や『日本の渡り鳥観察ガイド』などのガイドブック、野鳥の写真集に加え、『両生爬虫類観察ガイド』、『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』など自然観察に役立つ書籍の発行に力を注いでいます。さらに、日本生態学会や種生物学会など生物系の学術団体の編集による専門書、『保全生態学入門』・『生物学を学ぶ人のための統計のはなし』など長く愛される定番の大学向け教科書なども発行しております。
 4月に予定している『市民科学のすすめ』と題する新刊では、市民の力を集めて、地球環境や生物多様性の保全に取り組もうというビジョンを、多くの実例とともに紹介します。結果を政策決定に活かすことで、行政コストの削減にもつながると考えています。1996年の『保全生態学入門』は今年4月に27年ぶりの改訂版を刊行予定です。
これからも出版物を通じて、自然を守り種の生物多様性を維持することの大切さを伝えていきたいと考えています。

■ 出版梓会 新聞社学芸文化賞 受賞のことば

株式会社 共和国 代表取締役社長 下平尾 直

 このたびは第18回出版梓会新聞社学芸文化賞にお選びいただき、誠にありがとうございます。屋号は共和国ですが、社員なし、事務所なし、取次コードなし、と3拍子揃ったアングラ出版社なので、こうしたまぶしい賞を授かるのは、今回が最初で最後でしょう。選考にご助力くださった各社・関係者のみなさま、有形無形に支えてくださる著者、訳者、読者、書店員、恩師や友人のみなさまに重ねて御礼を申しあげます。
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2014年4月、それまでの経験から会社勤めには懲りていたのですが、上京して7年足らずの小さな実績では自分の名前で仕事を得ることは難しいだろうと、大きな社名で出版社を始めることにしました。当時をふり返ると文字通りの徒手空拳でしたが、そのときはわりと楽観的でした。といって何か新しい発明や大それた企みがあるわけでもなく、ぼんやりと以下のように考えたまま現在に至っています。
 まず、株式会社にしたとはいえ、町の雑貨屋のような個人商店なのだから、どうすれば無理をせずに等身大で持続させられるか。資本金100万円が全財産で出版業界に知己も少ない以上、持続以外に認知度を高める手立てがありません。世に「ひとり出版社」と言っても、本当にひとりだと何もできない。小社の場合も、装釘を一手に任せられるデザイナー、出版業で最も重要な流通を代行してくれる同業の版元、信頼できる税理士、DTPを担う友人たち、あるいは自宅を事務所がわりに使わせてくれる同居人の存在があって、はじめて書き手を受け入れられました。それぞれソロ活動をしている個人や法人が当方との協業を引き受けてくれたおかげで、会社でも組織でもないバンド活動のような出版活動が可能になったのでした。これはいざやってみると仕事の距離感が快適でした。
 もう1つは、ジャンルに拘泥しないことです。小出版社なら売場を特化して認知度を上げたいところですが、せっかくなら自分でもいろんなことを勉強したい。ただ、自分のキャパだと企画の幅も枠内に収まりがちです。会議を経ずに即断即決できるとはいえ、いちど自分の判断に疑問を持ち始めると、定価や部数ひとつ決めるのさえ悩ましい。新しいことに取り組みたいと思っても、ここ数年は完全にキャパオーバーです。もっと機敏に働ければよいのでしょうが、自分しかいないので周囲からあれこれ言われることがないのは功罪双方ありそうです。そんなこんなで創業5年目あたりから飲酒量もぐっと増えたのですが、いまではグーグルで「共和国」と検索すると、ドイツやチェコ、中国の大使館より上位にヒットするほどの知名度を獲得した(!?)のでした(当社調べ)。
 3つめは、時流やブームをナナメに見ることです。青臭くても反俗精神を灯し続けていたい。昨今の政治情勢とも無縁ではありませんが、「先の大戦」の時代には、出版社も他のメディアとともに翼賛体制に組み込まれ、資材の配給を受けながら「売れる本」「迎合する本」を世に送り出した前史があります。まんいち歴史が繰り返された場合、仮に小社が孤立することになっても「いやなものはいや」という権利を確保しておきたい。それには「金のために」をはじめとする「〜のために」を必要最小限に抑えておくしかありません。そして本当にダメになったときには、誰にも責任を転嫁せずに自分ひとりが責任を負えばいい。それが何よりもひとりで出版活動をする動機であり、快適さの源泉になっているようです。
 ―というような理屈をこねながら、もうすぐ起業から9年目のシーズンに突入します。今回の受賞で共和国を知ってくださった各位には、これをご縁に、小社が道を踏み外したときには厳しい批判を頂戴できればうれしく存じます。こちらはようやくオーディションに合格できた気持ちです。そのうち経団連や連合にも入会できそうな気がしてきました。今後ともご指導を賜りますようお願い申し上げます。

 

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